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イェルバアマルガ    ―Yerba amarga―

イェルバアマルガ

れるろの颶光女帝

ウルグアイ競馬
      歴史的名牝



(写真提供:大岡賢一郎氏)

父 エクスモール
母 メリー
母父 フィランモン

生年:1894年
性別:牝
毛色:鹿毛
国籍:ウルグアイ
生涯成績:34戦13勝
主な勝ち鞍:宇オノール大賞、亜オノール大賞、クリアドレス賞、ブエノスアイレス賞、ディアナ賞

19世紀末の南米はウルグアイに君臨した伝説の女帝。圧倒的威光と後光を解き放ち、他馬を圧制し、跼天蹟地の最果てまで突き放した烈光の瞑王妃。その神話的強さを白琴を爪弾くように、甘目かしく語り紡ぐこととしよう。

世界には驚愕驚嘆、震天動地の怪記録を燦然と歴譜のキャンパスへと刻み込んできた女傑が各国のホースマン、ファンらと邂逅を果たしている。
その内、現在では考えられないような超長距離を駆け、記録的大勝をつづけた女王たちに照明を当ててみたい。



 碧桜玉名妃たち
  
エレノア
史上初めてダービーを勝った牝馬で、英オークスの覇者でもある。ゴールドC(芝4,000m)を3回、キングズプレート(芝6,400m)を2回も勝った究極無比の女王。

アリエル
19世紀の米国で競走していたというこちらもまた神話級の女傑。
6,400m級のダート戦を28戦も使い、内18戦で圧勝。57戦42勝というとてつもない戦績を残している。

リール
米国競馬創世期における伝説の白駒。8戦7勝でダートの長距離戦で大楽勝の連続だった。

ビーズウイング
19世紀英国競馬最強の女王。長距離戦で破格の強さを発揮し、64戦51勝。アスコットゴールドCは2勝した。


…この他でも米国ではフィレンツェ、ファッション、インプ。南米においてはミスグリージョモウチェッテ…欧州では当然ながらキンツェムヴィラーゴセプタープリティポリー、近年の牝馬で言うなれば南半球のマカイビーディーヴァ(メルボルンC3連覇)などの名前が浮沈してくる。
これらの牝馬たちに共通しているのが、

_看倭蠎蝓当時の最強クラスを相手に完勝を果たしている。

3,000m以上の長距離戦で圧倒的かつ神懸かった神威的強さを見せている。

…という2点で、この両項はイェルバアマルガにも当てはまる。
この2点を満たす牝馬は完全に突然変異の神の領域へと踏み込んだ名馬と評していい。

そもそも、全生物は♂と♀とで、完全に体のつくりが違っている。♀は限られた優秀な子孫を後世へと残すための本能が備わっており、♂にはより多くの種を未来に残し、それらを繁栄へと導くための潜在本能が備わっている。それゆえ、♂♀の体力面の機能には大きな差異が生じてくるのである。

                             
〔男女の身体面での特徴は中学から高校時代に顕著に現れ始める〕

中学校から体育の授業が男女別となるのは、思春期を迎え、体力の差異が大きくなる時期であるためで、能力の高低という見地から分析するならば、人間の男女をモデルに考えれば容易に想像できることなのだが、女性アスリートが男性アスリートの能力を凌駕することはほぼありえない。それはオリンピックの競技の記録やタイムを比較対象して頂ければ、一目瞭然かと思う。これは馬も同じで、牡馬混合のGIで牝馬が勝つことは非常に稀な例なのである。それも距離が延びれば延びるほどその可能性は少なくなってゆく。有馬記念や春の天皇賞での牝馬の成績を見れば、明白な事実が頭をもたげてくる。

そうした長距離戦を勝ち抜く上で、絶対必要要因に挙げられるファクターは当然だが「スタミナ」ということになる訳であるが、この「スタミナ」とは一般的に競走で言うなれば“持久力”という事になろう。この持久力の優劣はどれだけ多くの酸素を摂取できるかで決まってくる。競走馬の酸素摂取量は毎秒190mlだという。人間の成人男性のそれが40mlとされていることからも、いかに馬の心肺機能が優れているかがうかがえてくる。

概して、運動は無酸素運動と有酸素運動とに大別できる。例えば、人間の百メートル走は無酸素運動であり、マラソンなどは代表的な有酸素運動と言える。サラブレッドも人間と同様で40秒〜50秒は無酸素運動で駆けることが出来るという。
ちなみに1,600mでは無酸素エネルギーがおよそ30%、有酸素エネルギーが70%になる。距離が延びるにつれ、有酸素エネルギーの比率は高まり、天皇賞(春)やメルボルンCに代表される3,200mの2マイル戦では、無酸素が10%、有酸素が90%にも昇る。それゆえにより高い心臓や肺の酸素運搬機能が希求されるという訳である。
上述したような名牝たちはおそらく、巨大な心臓の持ち主であるか、余程呼吸・肺機能の傑出した反則的体力を有していたに違いない。




きっと彼女も…――

そうウルグアイ古都の女帝も常軌を逸した尋常ではない竣威極まるポテンシャルを放散していたに違いない――
南米競馬の権威・大岡賢一郎氏から授かったイェルバアマルガの写真を見れば一目瞭然。
胴がスラリと長く、ステイヤーの特徴を見せている。また、前肢と後躯もガッチリと筋肉の鎧が付いていることも覗え、相当な加速を可能としていたことだろう。彼女の馬体を見つめれば、最強のステイヤーたる資質を、馬体の細緻に認めることができるのだ。


イェルバアマルガは窈窕なオーラを常に外套のごとく身に纏い、南米を疾駆した。
ウルグアイ競馬の父ホセ・ペドロ・ラミレス博士をオーナーに、ウルグアイでディアナ賞等を鯨飲。あっさり2歳戦で王者になると、クラシックも超大本命馬として駒を進めた。その座は不動のはずであったが、脚部不安を発症し、休養を余儀なくされてしまう。
その神々さえも打ち砕き、震撼させるポテンシャルを出す機会もなく時間は流れ、ようやく復帰するや、この解放の時を待っていたかのように一機の連勝街道烈進。そして宇オノール大賞(ダ3,500m)を天から放たれる槍の如く突き抜け、ウルグアイ最強古馬の地位へと翔け上がっていったのであった。

ところがである。ウルグアイは経済の悪化に歯止めが掛からず、その災禍は競馬へとも暗い影を落とした。経営難を苦に、次々と競馬場が閉場へと追い込まれ、イェルバアマルガが走る競馬場は消失の一途を辿った。
残された手はただ一つ…ラプラタ川対岸に位置するアルゼンチンに乗り込み…そして勝つ!

ラミレス博士は大英断を下した。そう、イェルバアマルガをアルゼンチンへと送り込んだのである。ウルグアイ最強の女帝として――。
女帝はパレルモ競馬場へと来臨。参戦するレースは国内最古の牝馬重賞・クリアドレス大賞(ダ2,500m)と決まった。その強さ、伝説のごとし。威烈なる波動を迸らせ独走。
この馬の凄いところは、ダートの長距離戦で牡馬を一蹴しただけでなく、圧倒的な実力で他国馬を震撼させていたアルゼンチン馬たちを、再三再四に渡り、しかもアウェーの状況下で楽勝・圧勝を繰り広げたという点なのである。


歴史的快挙は、天空の戒めを解き放つように――。

完全アウェーの中、亜版ゴールドCであるオノール大賞(ダ3,500m)を大勝。なんということか、両国二国間に渡るオノール大賞優勝という歴史的大偉業をアッサリと、しかも牝馬がやってのけてしまったのだから、ウルグアイの競馬関係者とファンは歓喜と祝福のシャワーパーティーに溶け暮れたのも感懐できる。







闇よりも暗き時代――。
夜よりも深き黄昏――。
永久を過ぎ行き、往き交う風が、彼女の名を今も囁いている―――


             


烈光の揺りかごに眠る夕幽艶なる女神の唄を―――…・・・。



  

  

☆イェルバアマルガはタッチストンの5×5×5の多重クロスを内包している。

☆ウルグアイには本馬を記念したレースがある。



☆亜オノール大賞後、イェルバアマルガは燃え尽きたかのように敗走を繰り返してしまい、静かに引退していった。

☆イェルバアマルガの牝系は、ウルグアイ国内や南米のみならず、世界へと波及していった。


                            
〔竜の頭蓋骨と伝えられる骨格。妖艶なる雰囲気を放っている。イェルバアマルガもまさしく竜馬のような存在であり、現世においてもなお、只ならぬオーラを放出し続けている〕



[アルゼンチンへと向かうイェルバアマルガ]


   

奇跡の名馬 (南米諸国の名馬) * 05:25 * - * - *

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