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シュヴァルツゴルド 

 【シュヴァルツゴルド】

〜夕陽に浮かぶ黄金女帝〜

 ―ドイツ競馬・
      絶世の名牝―



父 アルケミスト
母 シュヴァルツリーゼル
母父 オレアンダー

生年:1940年
性別:牝
毛色:鹿毛
国籍:ドイツ
生涯成績:12戦9勝[9-3-0-0]
主な勝ち鞍:ドイツダービー、ドイツオークス、帝都大賞、ドイツ1000ギニー、オレアンダーレネン、オッペンハイムレネンほか

かつての栄華を極めた東欧の馬産、とりわけハンガリー・オーストリアはかなりの高水準で、名馬・名牝の宝庫であった。それを代表するのがキンツェムやペイシェンス、キシェベルやタウルスといった神話級の駿馬たちであるわけであるが、これに匹敵、伍するほどの潜在パワーを抱擁していたのが第一次大戦〜第二次大戦、歴史的不の遺産である二度に渡る世界大戦が頭を擡げていた当世のドイツだったという。
ランドグラフ、アルケミスト、オレアンダー、ティシノ、ビルカーハン、ネッカル…歴史的名馬が集中的に降誕しているのが、まさにこの時代に当たるのである。あの伝説の名牝、真のドイツ史上最強馬とも謳われるネレイデや、本馬シュヴァルツゴルドも戦乱という暗黒時代を疾駆し人々へと勇気の灯を翳し、鼓舞した。戦火の彼方、茜空を翔け、他馬を睥睨した究極女帝シュヴァルツゴルド。彼女の儚くも壮大なる生涯をなぞってゆきたい。

 
〔史上初の牝馬ドイツダービー馬・アマリーヴォンエデルリッチ。1873年の独ダービー馬である〕

天空を過る幾千もの流星のように、名馬を送り出してきたシュレンダーハン牧場。この名門牧場で産声を上げたシュヴァルツゴルトは悲愴感に満ちた瞳を持って生まれてきた。父アルケミストが戦争の煽り、銃殺され闇に葬られたという悲劇を、まるで悟っているかのようであった。
利発で非常に賢く、純真無垢な仔馬であったという。人間が繰り返し続ける無残・凄惨な殺戮行為の傍ら、幸せの小箱を抱きかかえるブルネット。その小箱に込められた夢と希望の微光を解き放つ時は刻一刻と差し迫っていた。


  
〔現在でもなお、シュヴァルツゴルドはドイツ競馬における史上最強級牝馬の評価を博している。その強靭性に貴婦人たちも目を丸くして拍手賛嘆する他無かった。人々は、ほんの一瞬でも戦争という狂乱世界を離れることができたことに深謝し、いつまでも、いつの日でもシュヴァルツゴルドを忘れることはなかったという〕

シュヴァルツゴルドはその窈窕なるオーラを円状に放散しつつデビューを迎える。
1939年の5月、ホッペガルテン競馬場の芝1,000mに登場。E.ベールケ騎手が騎乗し、トルクサという牝馬に首差だけ競り負けてしまうものの、陣営には微塵の焦りもなく、折り返しとなるスポーツレネン(芝1,000円)であっさりと馬なりのまま6馬身差楽勝し、その後はは手綱をギッシリと握り締められたままの大楽勝・圧勝を続け、クラシックロードも勇往邁進。
まず第一関門のヘンケル・レネン(ドイツ2000ギニー、芝1,600m)はニューワ(この馬も牝馬でこの年の独クラシックは牝馬に独占されてしまう)にまさかの敗戦。わずか3/4馬身差の僅差負けも、これがシュヴァルツゴルトの最後の敗戦となる。
キサスゾニー・レネン(独1000ギニー、芝1,600m)を再度ニューワを相手に6馬身差突き抜け完勝し、同期の牝馬に併走できるような相手が皆無であることを徹底して訴えた。このレースは母のシュヴァルツリーゼルも勝っており、劇的な母娘制覇となった。

ポーランド併合にナチス・ドイツの憎悪。戦火は日に日に増しており、空を爆音で劈く戦闘機が今日もまた空の彼方へと飛び去っていく――。永遠につづくかのようなナイトメア。暗漣に終止符を打つべく、シュヴァルツゴルドがドイツオークス、ダービーの両レース制覇へと乗り出した。
ディアナ賞(ドイツオークス、芝2,000m)距離は伸びたものの、レース振りはさらに安定味をましており、競馬場で見つめる誰しもが彼女の勝利を確信していた。それほどに楽なレース振りだった。近代日本競馬で例えるなら、ダイワスカーレットがしっくりくる。
見る見るうちに差を広げていき、ゴールを悠然とたゆたうように通過した時、何十メートルあるか判然としない大差の距離が開いてしまっていた。わずか3頭の挑戦者たちは完全に別のレースを、遥か後方で展開しており、シュヴァルツゴルトは、このレースで完全に覚醒を果たしたようだった。
暗澹たる時代の鉄幕を押し退けるように、運命のその日へと漸進するシュヴァルツゴルドはまさに聖騎士のようで、ドイツダービーでのレースパフォーマンスを誰しもが心待ちにしていた。
迎えたる運命の1日。ドイツダービー(芝2,400m)でも彼女の凛然たる風采は微塵も変貌を遂げず、直線走路では浮踊するいつものシュヴァルツゴルドが、ベストパートナーであるG.シュトライト騎手に首筋を愛撫されながら、10馬身差という大楽勝で変則三冠を達成。父娘でのダービー制覇。漆黒の最果てへと貶められた父へと捧げるダービー戴冠であった。
この時の2着馬はサムライ。ハンブルク競馬場はあまりのその馬の強さに、ただただ感嘆のため息を漏らす他なく、数年前に戦火の彼方へと焼失してしまったレジェンドプリンセス・ネレイデとその姿を重ねるようになっていく。

  
〔ダービーのスタートシーン〕

オレアンダーレネン(芝2,400m)では2頭のみしか相手がおらず、終始馬なりのまま馬身差換算不可能の大差勝ち。
秋も少しずつドイツ国内へその足をのばしつつある初秋のホッペガーテン、帝都大賞(芝2,400m)にシュヴァルツゴルト降臨。
サムライを再度絶望の底へと突き落とす、馬身差換算不能となる超大差勝ち。
生涯を通し、全戦連対。敗れたレースも全て惜敗で、常に最高のパフォーマンスで観衆を虜にしてしまった才女。しかし、彼女は謎の不治の病に蝕まれており、不幸にも13歳という若さでこの世を去っている。しかし、奇跡的に出産した2頭の牝馬から血は未来へと継承された。
伝説の女傑の潮流は今もなお、スリップアンカーやサガスらを通じ、滔々と紡がれている――。


  
夕闇が辺りをつつむ中、宇宙(そら)から降り次ぐシリウスシャワー。
それは彼女を称える祝韻の空唄。
記憶の彼方、夕影に映える黄金色のシンフォニー。
ドイツ競馬の結晶体…奇跡の女王へいま、乾杯!




  

奇跡の名馬 (仏国・独国・伊国・愛国の名馬) * 01:20 * - * - *

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