<<   フェアアンドスクウェア  ―Fair and Square―  / main / 第14回 秋華賞 >>

シーブリーズマーブルメロディー ―Sea-breeze marble melody―

 【シーブリーズ
  マーブルメロディー


 〜 微風恋情詩篇

海が見える丘に佇む
   小さな競馬場の
    小さなヒーロー




父シーバード
母パトリナ
母父オリンピア

生年:1974年
性別:牡
毛色:鹿毛
国籍:セントキッツネイヴィス
生涯成績:17戦15勝
※写真左端

綺羅めく泡潮を譜線としてそよぐささやかな風が競馬場を吹き抜けていく――。

麦藁帽子が風に揺れる―――…。
パッと咄嗟に頭を抑え、帽子が浮遊してゆく術を封じた一人の老翁は、昔懐かしそうな眼差しで天を仰いだ。

「思い出すな…あの頃、あの馬を…」

セントキッツネイヴィスの小さな環礁を舞台に、交流国アンティグア・バーブーダの遠征馬たちを跳ね返し続けた島の名馬の武勇伝。奇跡の赤駒が織り成した佩玉のシンフォニーを編綴してゆくこととしよう。



シーブリーズマーブルメロディーは、セントキッツネイヴィスへと輸入されてきた馬で、生まれは北米。世界史上最強馬シーバードの子息・胤蹄として大海原を渡り、鳴り物入りの超大物としてこの島へ来訪したのであった。
馬主はマーブル柄の勝負服を使っていた特異な人物で、詳細については資料不足のため明るみに出ていないのだが、これだけの超良血を名もない島へと導きいれたのだから、それなりの貯蓄・財産を抱えた富豪、もしくは資産家だったと推査できよう。

カリブ海に浮かぶ島々はそれぞれのエリアで交流を盛んにとっている。例えば、英領ヴァージン諸島のトルトーラ島と米領セントトーマス島では、お互いの競馬場の交流戦を綿密に行い、両競馬界の活性化を図っており、ヴァージン諸島の史上最強馬アクトスペクテイションは、英領をホームに向かい側のセントトーマスへ幾度となく遠征していた。
また変則クラシック四冠馬ゾウクを輩出したバルバドスでは、ジャマイカ、トリニダード、マルティニークから招待馬を招き、国際競走の充実化に力を注いでいる。
そして、何といってもカリブ12ヶ国を持ち回りで開催される中米版BC、『カリブ国際クラシック』(ダ1,800m)が最大のレース。同日にはカリブスプリント(ダ1,200m)、カリブ牝馬カップ(ダ1,700m)、カリブ国際連盟カップ(ダ1,900m)が開催され、大変な賑わいを見せる。いわば中米カリブ海最強馬決定戦で、文字通りここを勝つ馬こそが最強馬という燦然たる太陽の冠を戴くことが許されるわけで、ここを勝って世界へ進出する名馬の出現が今や遅しと待ち望まれる。

さて、ここセントキッツネイヴィスでは、近海のアンティグア・バーブーダと交流を深めており、両国代表馬の凌ぎを削る熾烈な激闘に島民たちからの声援は絶えることがない。

 

セントキッツネイヴィスというこの島について概略を述べておきたい。本島は別名セントクリストファー・ネイヴィスという呼称があり、小アンティル諸島内のリーワード諸島に浮かぶ英連邦王国の立憲君主制国家である。首都はバセテールで、日本国で言うなれば、熊本程の面積の小さな島国である。この東に構えるのが競馬のライバル国アンティグア・バーブーダ。
かつて島の主力産業を担っていたのがサトウキビ生産であった。これを受け、島中に運搬を目的とするシューガートレインが設けられ、線路を58箇所も敷かれることになったのだが、砂糖産業は奴隷制の象徴であるという風潮と、観光産業の躍進・急成長に後押しされる形で、2007年廃絶の道をたどった。



  
島影に風が吹き抜けてゆく――。
パイナップルカートを押し歩く女性の髪が、風の旋律になびいている。
「風の歌」―――。

2006年にメイショウサムソンの三冠を鯨飲したソングオブウインドは、実に情緒あるセンスに富んだ命名だと、感慨深く潜心したものであったが、この島へ降り立った紅駒へ与えられた天名も心の琴線を爪弾き、颯爽たる心模様にフェードさせてくれる不思議色の馬名であった。

「そよ風の旋律」―――。

これにオーナーを表象する爛沺璽屮襯ラー瓩鯒曚擦弌伝説の名馬を導く符号となる――。

“シーブリーズマーブルメロディー”

小さな島に威光を放つ譜線が紡がれた瞬間であった。



シーブリーズマーブルメロディーは、デビューから連戦連勝を続け、瞬く間に島の英雄へと昇り詰めた。そしてアンティグア・バーブーダからの刺客を次から次へと圧倒し、挑戦者の息吹を完全に根絶させた。光の海鳥から与えられた巨翼が拡げられるや、微風は烈風へと変わり、砂塵を巻き上げ2馬身、3馬身と着差を大きく広げてゆく――。
逃げ先行を勝利の方程式に添える戦慄のメロディー。


  
〔セントキッツネイヴィス唯一の競馬場は『インディアン・キャッスル』。1周5ハロンもあるか微妙なほどの小さな簡易的競馬場で、小高い丘の上からは、カリブ海の洋々と広がる絶海を望むことが出来る〕

島民の声援と情熱を支柱に、最強馬でありつづけた彼の存在を知る者は極僅か…
海が見える丘から望む絶景を背景に疾駆した愉夢の時間は、万民にとってかけがえのない、心一つになった奇跡のハルモニアタイムだった。

潮風がとどけるささやかな漣――…

ヤシの木が揺れて立てる葉音――…

夕日の中なびく少女の髪――…

そこにあるのは島の伝説となった、大理石より堅固な信頼性を誇った爛沺璽屮覘瓠

微風の歌声が聴こえてくる…爛掘璽屮蝓璽坤瓮蹈妊ー瓠


佇む古翁は、恋歌を口ずさみつつ、ある一つの想いを抱懐していた。
“偉大な名馬が、こんなちっぽけなラグーンにかつていた”…数年前までサトウキビを搬出していた列車が過ぎ去る中、その轣轆(れきろく)を傾聴しつつ、老人は回想をめぐらせ、深く神へと謝辞の祈念に耽るのであった――…・・・。

         

奇跡の名馬 (中米・カリブ海の名馬) * 04:11 * - * - *

スポンサーサイト

- * 04:11 * - * - *