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ゼンヤッタ ―Zennyatta―

  ゼンヤッタ

もどかしい
   無敗(せかい)の上で


世界がした
   不敗神話
     スーパー
女傑



父ストリートクライ
母ヴェルティジニー
母父クリスエス

生年:2004年
性別:牝
毛色:黒鹿毛
調教国:アメリカ合衆国
生涯成績:20戦19勝[19-1-0-0]
主な勝ち鞍:BCクラシック、BCレディースクラシック、ヴァニティー招待H三連覇、レディズシークレットS三連覇、クレメント・L・ハーシュS連覇、クレメント・L・ハーシュH、アップルブロッサム招待、アップルブロッサムH、サンマルガリータ招待H、ミレイディH連覇、エルエンシノSほか


『世界は悲しすぎる』
冥暗たる深潭の海…星降る夜に翔羊する月の小舟…
沓冥暗夜の空、ほのかに燈り出す珊玉は街明かり…



ポツリ、ポツリ
遠き日の街の灯。
夜の帳が降りる頃…まるで何らかの信号のように灯り出す街の灯。

その輝きのもと、繰り返される営み。

甘眠の揺り篭の中、眠りの神オルフェウスに抱かれ、人はまた今日も哀しみしも、悔恨も、喜楽や懸念、郷望や愛慕、そして生きる記憶さえも、眠りのなか忘却の牛車へ載せて夢の中別れを告げる…

そうしてまた人は歩み出す。

何かが足りない、完璧なようで
何もかもが欠けたこの世界を
人はもがきながら
今日も未来(あす)見えぬ明日へ歩を進めてゆく。

もどかしい世界。

そんな人類の傍ら、巨夢という風船を膨らませる競走馬。

これは21世紀初頭、北米から全世界を虜にし、熱狂させた一頭の后馬の話。
猝鞠圻瓩箸いΑ△い鎚れても可笑しくない、もどかしい世界を孤高の存在として歩んだ偉大な名馬の究極爍抬畤析叩

それではユラリユラリと、その神話を紐解いていくこととしよう。


『君が成すべきこと』
米国という巨万の舞台に腕ならぬトラッペットを吹き鳴らしたハーブ・アルバートは、一流のトランペッターとして躍進を遂げたミュージシャンで、1962年には当時はまだ名もない一介のポップミュージックのプロデューサーだったジェリー・モスと100ドルずつ出資し、後に一大レーベルとして名を上げるA&Mレコードを創設した。事業は奇跡的発展を見せ、大物ミュージシャンを次々と輩出。
その所属ミュージシャンの一組にポリスというロックバンドがいた。スティング、スチュアート・コープランド、ヘンリー・バトゥバーニらの三人組が紡ぐ新ジャンルのロックは、新たな世界観を斬新と見せるもので、それはロックの枠組みにレゲエを融合させるという画期的ものだった。それは一方で爛曠錺ぅ函Ε譽殴┃瓩噺鴇里気譴訖軍鞠阿硫山擇修里發里如◆惴鋲箸離瓮奪察璽検戞◆惺盥散技奸戞◆悒泪献奪』など、ヒットナンバーをめくるめく織り紡ぎ、全世界で大ヒットを記録していった。2003年には殿堂入りするほどの歴史的ロックバンドへと昇華。そんな偉大なロックスターたち、彼らの三つ目のアルバムに『ゼンヤッタ・モンダッタ』というアルバムがある。ゼンヤッタの名前の由来はここから来ているのだと言われる。

ジェリー・モスは莫大な財を音楽を通してのビジネスで築き上げると、競走馬にも興味を示し、馬の世界へとのめり込んでいった。そんな折の2005年9月、キーンランドのセールに参加していたモスは、のっそりと姿を現した巨躯を持て余す黒い雌馬に一目惚れ。
見惚れた巨馬をすぐさま手配。所属厩舎はカリフォルニアを拠点とするジョン・シフレス調教師に白羽の矢が立った。シフレス氏は見上げるようなこの牝馬に圧倒された。
それもそのはず。ゼンヤッタの2歳牝馬とは思えぬほどの雄大な馬体は、17ハンド(172cm)、馬体重にして約544kgもあったというのだからそれも頷ける。威圧感放つ漆黒の馬体から脅威が窺えたが、この巨体が仇となり調整は難航。度重なる小さな故障に、シフレス氏は頭を抱えた。しかし、決して焦らなかった。隔靴掻痒たるムードは陣営全体にあった。しかし、強いて馬を仕上げても、それはゼンヤッタを追い詰めることにしかならず、ひいては確実に将来を蝕むものと推断。ついにはデビュー戦を待ちに待ち、彼女のすべてが万全となる時を待った。まさに「鳴かぬなら鳴くまで待とうホトトギス」。ハイペリオンやカネヒキリなども馬を信じての調整が好結果を生んだ例で、ゼンヤッタはまさにその最新版。そしてその強さまでもが、何もかもが破格の新世紀版競走馬だった。

すでにモスが運命のフォールインラブを感知した初邂逅の瞬間から1年半近くの時が過ぎようとしていた。悪戯に過ぎ行く季節の移ろいの中、ゼンヤッタ・デビュー吉報の届いたのは3歳11月。米国としては稀に見る遅いデビューとなった。初戦に選ばれたのがハリウッドパーク競馬場メイドン(AW1,300m)で、豪快に突き抜け、2着キャラメルコーヒーに3馬身差の圧勝でデビューを飾ると、2戦目となる12月15日のアローワンス(AW1,700m)ではなんとデビュー2戦目にして1:40.97というトラックレコードをオマケに古馬を相手に3馬身差の大快勝。

  

『ドゥドゥドゥ・
      デ・ダダダ』
年が明け2008年を迎えると、いよいよゼンヤッタワールド全開とばかりに、連戦連勝を楽々と積み上げていく。
まず始動戦は初の重賞戦となったエルエンシノS(AW1,700m)でも何食わぬ顔で颯爽と勝利を掻っ攫うと、今や遅しとGIのステージへと駆け寄っていった。
初のGI挑戦(アップルブロッサムH)に加え、自身初となるダート戦、しかも相手には2007年にBCディスタフを制した最強古馬牝のジンジャーパンチが頭を擡げ、ゼンヤッタの前に立ちはだかった…明らかに敗戦色濃厚の一戦…がしかし!
なんと言う事か、まるで誰が最強馬であるかを悟りきったかのように、ゼンヤッタは後方から悠然とレースを進め、3コーナーから一気に捲り上げると、直線では真一文字に突き抜けてしまうのだった。2着馬には4馬身半差、そしてジンジャーパンチには8馬身差もの大差を残酷なまでに突き付け、新女王候補に名乗り出るとともに、偉大なGI連勝記録の第一蹄跡となる初GI優勝を達成。この時コンビを組んでいたのが、生涯最高のベストパートナーにして残る全戦で手綱を取ることとなるマイク・スミス騎手であった。

ゼンヤッタは一完歩の跳びが非常に大きく、それはファーラップやセクレタリアト、ディープインパクトといった世界の伝説の最強馬たちのそれにすら比肩するほど…いやそれ以上に雄大かつ荘厳なフットワークだった気がしてならない。
とにかく飛び幅がとてつもなく大きく、それでいて脚の回転も速く、それでいてダイナミックに前脚を掻き込んで前へ前へと突出してゆく独特の走法は、ディープの空飛ぶ走りをも凌駕するものだったのかもしれない。
初GIのタイトルを手中に収めたゼンヤッタは、次々とGIタイトルの鯨飲を開始した。
そしてついに挑むは、GI中のGI、ブリーダーズカップ。この年のゼンヤッタは、レディースクラシック(AW1,800m)を選択。ここにはここまでで最強レベルのライバルが結集。UAE二冠牝馬ココアビーチに、GI3勝を大差勝ちで飾っているミュージックノート、スピンスターSを8馬身差のレコード勝ちという凄絶な強さを発揮し始めているキャリアッジトレイル、そしてジンジャーパンチも万全の仕上げを施し、ここに臨んで来ていた。
これほどの強敵を向こうに回し、なんと1.3倍ものダントツの1番人気に支持されると、最後方からゆったりとレースを進め、大外から巻くって直線強襲。楽々と全馬を撫で切り、7戦全勝で2008年を締め括った。

2009年を迎え、ゼンヤッタはさらに充実著しく、麒麟のごとく翔動。
無敵の連勝街道にGIタイトルのコレクションを増やしていく。
ちょうどこの頃、3歳クラシックにて彗星のごとく革命的女傑が降臨。
そう、レイチェルアレクサンドラである。レイチェルはケンタッキーオークスにて20馬身1/4差という歴史的超大差勝ちを演じ、さらには85年ぶりに牝馬としてプリークネスSを制覇、そして古馬の一線級を相手にウッドワードSを勝ち、GI5連勝を達成している歴史的名馬であった。ファンは次第に世紀の名牝、2頭の最強女王の比較対照を無意識のうちに始め、それはやがて、片時も脳裏を離れることない高揚感となってファンを煽情的に盛り上げていった。その心揺さぶる熱波は日和に大きくなり、次第に競馬界の枠を超えた次元で波紋を広げていくことになる。
「もしかして、BCクラシックで激突するのでは…」との仰望成就を多くのものが胸膨らましていた…がしかし、レイチェル陣営はオールウェザーコースを毛嫌いし早々に回避表明。これにより2頭の直接対決は棚上げとなり、全世界の競馬ファンが溜息をつくこととなった。


『もう一つの終止符』
そんな喧騒を余所に、ゼンヤッタは全米最高峰・BCクラシック(AW2,000m)を引退レースに選び、ゼンヤッタは初となる牡馬最強クラスとの直接対決という難局と対峙することとなる。
芝とオールウェザー全米最強と呼ばれるジオポンティ、ケンタッキーダービー馬マインザットバード、ベルモントS馬サマーバード、そしてアイルランドからは世紀のモンスターホース・シーザスターズ世代のリップヴァンウィンクルが参戦。リップヴァンウィンクルは主戦のムルタが惚れ込んだ名馬で、愛ダービー馬フェイムアンドグローリーやGI2勝馬マスタークラフツマンより遥かに高く評価している。シーザスターズと生まれる時代さえ違っていれば、とてつもなく歴史的強豪として競馬史に名を刻んだことだろう。それほどの名馬が遠くアイルランドからGI2連勝の勲章を引っ提げてやってきた上に、クラシックタイトルを持つ3歳と豪傑古馬、さらには芝チャンピオンが剣先を交えるというのだから、盛り上がらない方がどうかしている。
ゼンヤッタはいつも通り、飄々と最後方に近い位置からレースを進め、第三コーナー付近から加速を開始。しかし、直線を向いてもまだ差し切るのは不可能ではないか…と懐疑的になるほどの絶望的ポジションに位置していた。ところがである。まるで神々の導く光の道が照らし出されたかのように、ゼンヤッタは馬群の中をスイスイと擦り抜け、ジオポンティを完全に射程圏に捕らえると、マインザットバードやサマーバードらを跪かせ、ついには爛劵絅襯雖瓩叛萋に立った。そこがゴールで、これにより14戦14勝。あのネアルコと並ぶ無敗記録と同時に、BC史上初となる牝馬でのクラシック制覇という空前絶後の金字塔を競馬史へと突き立ててしまったのである。
競馬場へと詰め掛けたゼンヤッタ・ファンは目頭を熱く滲ませ、ゼンヤッタを見つめ続けた。
鞍上のスミスは感動のあまり、天へと向かい神へと感謝の祈りを捧げ始めた。ゼンヤッタの背中の上、涙を流しながら十字架を切る一人の男、その崇高なる光景こそが、爛璽鵐筌奪伸瓩何であるかを一言に体現ししていた。
まるで勇者の戴冠式のような、その荘厳な空気は、ウオッカのダービー以上の威光が溢れ返っていたと言っても過言ではなかった。まるでジャンヌ・ダルクの凱旋。歴史的運命の歯車が、間違いなくこの時、この瞬間の競馬場で回り始めていた――……


ハリウッドパーク競馬場。歴史的BCクラシックから21日後、デビューの地にて引退式が催されることとなった。もう二度と回り逢うことなど許されぬであろうこの絶世の女傑に別れを告げようと、まるでGIレース当日さながらの大観衆が押し寄せる。
Go!Zennyatta!瓩離廛薀ードを皆一同に掲げ、ゼンヤッタの名を叫ぶ女性たち。
競馬場はいつの間にか一つになり、別れの言葉を囁いていた。そして、賞賛の言葉を捧げつつづけていた――…
12月26日にはBC制覇を成し遂げたサンタアニタ競馬場において、現役最後の勇姿を披露。
これが見納めと、競馬ファンは皆一様にスタンディングオベーションで彼女の走りを見送った――


『果て無き妄想』
年度代表馬の選定に衆目の目が注がれた。
ゼンヤッタかレイチェルか――。
有効投票数232票の内、99票を集めるも、レイチェルを推す声が130票と、前年に続き、年度代表の大勲を逃すこととなった。ちなみに2008年度はカーリンとの争いに敗れていた。
無敗のBCクラシックの快挙を持ってしても、届かなかった夢の年度代表馬。
しかしそれ以上に、ファンが悔いたのはレイチェルとの直接対決。ゼンヤッタの引退により、完全に夢は気泡へと帰っしたのだから。

ところがである。

とんでもない大ドンデン返しが待っていた。
2010年の1月16日、引退撤回。現役続行のスーパーサプライズが、陣営の口から明らかにされたのである。これに世界は大激震。これによりドバイWC参戦も噂され、ウオッカとの夢の日米最強女王決定戦も日本競馬ファンの間で夢想されたものであった。

「彼女は本当のスターだ。私たちは彼女の走るところが見たいんだ」

そう滔々と語ったモスは、ドバイ参戦を暗に否定。動向を燻らせた。
そんな中、囂々と再燃する史上最強女王決定戦。レイチェルとのマッチレースが現実味を帯びてきた。両陣営とも意識していなかったと言えば嘘になる。やはり一目の敬意を置き、いつの日かその日がやってくることを心待ちにしていたようだった。
この何処へ行くとも知れぬ結論を煮え滾らせる鉄火場に、まるで助け舟を出すかのごとく破格の条件提示をする者が現れた。オークローンパーク競馬場がそれで、賞金を通常の10倍。さらには出走頭数を10頭に制限した爛▲奪廛襯屮蹈奪汽狆径圻瓩魍催すると宣言。しかも、2頭が万全の態勢で出走できるよう、通年より開催を遅らせるとまで明言。この超異例となる待遇に両陣営も同意。
こうして歴史的初対決の舞台が設定されると、全世界のあらゆる場所で、2頭による夢の対決の論戦舌戦が幾度となく繰り返されることとなった。




「4月9日」。
運命の決戦日時が確定され、いよいよ最高潮。
ゼンヤッタは復帰戦であるサンタマルガリータ招待H(AW1,700m)を圧勝。
悲鳴のような大歓声がゼンヤッタの帰還を祝福。
いかにこの馬が愛されているのか、その歓声一つで瞬時に感得できる。
レースぶりもあいも変わらず、スローモーションのように前半を後方追尾。3コーナーから急躍進を開始し、直線で大外一気。2の脚・3の脚を繰り出して先頭をゴール前で飲み込む…という爛璽鵐筌奪織僖拭璽鶚瓩箸任睫震召靴燭なるような独特のこの戦法。
この1戦を見たレイチェル陣営も軽い相手の前哨戦を使い、ここを大差ぶっちぎってゼンヤッタ陣営にプレッシャーを懸けようと謀略を練っていた…がしかし、レイチェルアレクサンドラは一体どうしたことか、まるで眠ったままレースをしたかのように無抵抗で、あっさりと敗退。この敗戦を理由に、レイチェル陣営は世紀の一戦を蹴り、レイチェルを立て直すことに躍起になっていく。
結局のところ、以前の燦然たる理力を取り戻すことなく、レイチェルアレクサンドラは惨敗をいたずらに重ね、引退。
レイチェルVSゼンヤッタは人々の心の中だけで決戦を許される、果て無き妄想のパズルと化してしまった――。
全盛時の2頭のどちらが強かったのかは、神のみぞ知る永遠の謎である。


『ボムズアウェイ』
ゼンヤッタはレイチェル不在のアップルブロッサム招待を飄然と圧勝。4馬身半差も馬なりのまま追い込んでつけ、節目となるGI10勝、さらにはサイテーション、シガーらが記録した16連勝に並んだのだった。

もはや、「レイチェルVSゼンヤッタ」は過去の遺物と成り果てていた。
全世界の心は、健気にただ勝利の唄を歌い続ける一頭の淑女の連勝記録にのみ、魅了されていた――
己の矜持を羊角として巻き起こし、奇跡的に勝ち続けるゼンヤッタ。
負けそうで負けない、必ずやってくる不敗神話を織り紡ぐピンク・エメラルドのドレスを翻す美少女は、いつしかアイドルの枠をも超えた、世界的スーパースターの地位を築き、さらには地球という星の歴史に屹立する一人の大女帝へと登攀していたのである。

そして、ついにロックオブジブラルタルのGI競走7出走7連勝の記録を超え、8連勝…9連勝を記録。

不況に次ぐ不況。
暗澹たる暗黒国家らの脅威。
すぐ傍に横たわる潜在危険の数々。
人を人とも思わぬ悪の跋扈するこの世界。

万民はヒーローを求めた。
しかし、そこに英雄はいなかった。

いたのは純粋無垢な心を持つ少女…
彼女たちが、世界へと光をもたらした。

ラグズトゥリッチズ。
ザルカヴァ。

ウオッカ。
ダイワスカーレット。

レイチェルアレクサンドラ。

そして
ゼンヤッタ。

この潮流は絶えることなく
ブエナビスタ、ゴルディコヴァ、オーサムフェザー、スノーフェアリー、レーヴディソールたちへと継承されていっている。

狃の時代瓠

その旗手として――

その象徴として――

そして、全米最後の希望として――…

さらにはそんな世界すらも超越する狄世領琉茘瓩悄
ゼンヤッタはもどかしい無敗伝説を綱渡りするかのように勝ち続け、そしてその最終到達点へと辿り着いた。


もどかしい無敗
     (せかい)の上で
BCクラシック(ダ2,000m)。米国競馬の総本山・ケンタッキーダービーも催されるチャーチルダウンズ競馬場のこの最高峰が、ゼンヤッタの真のラストランに選定された。
この年は前年をさらに上回る強豪が終結した。
GIドンHで大差勝ち、タイトルを積み重ねるクオリティロードに、このコースをベストコースとし、見る見るうちに力を増強してきたブレイム(ホイットニーHなどGI2勝)、プリークネスS馬で3歳最強馬と目されるルッキンアットラッキー、日本からは歴代でも最強クラスのダートホース、エスポワールシチーも参戦していた。
ゼンヤッタは例によって最後方。しかし、この日はさらに常軌を逸すほど離れた最後尾、馬群の一番後ろを行く馬からさらに5〜6馬身離れた超最後方からのレース展開。はっきり言って、こんな戦法ではBCはおろか米国のGIでは勝負にならない。これはかなり実力あるGIホースにも通じることで、スタートからゴールまで超ハイペースの消耗戦で、サバイバルレースとなる米国競馬は前が止まらない。追い込む場合でも、シルキーサリヴァンのような例外中の超例外は別に中団から好位につけない限りはほぼ大敗宣告を告げられたも同然。しかし、ゼンヤッタはそんな暗黙ルールは何処吹く風とばかりに、自分のレースを突き通してきた。今回の20連勝とGI10出走10連勝、そしてBCクラシック史上初の無敗連覇という超絶的大記録三連を前にしても、何ら変わることなくやってのける。
3コーナーを過ぎてもまだ少し差を詰めただけの最後方。4コーナーを向かえ、一頭だけ交わし、スミスは馬群の真ん中へとゼンヤッタをリードした。もはや1着はおろか連対すら絶望的だった。

しかし――
奇跡が起きる。

馬群を擦り抜け、大外へと進行。
面舵一杯!アクセル全開!!とばかりに猛加速、一段二段三段とギアチェンジがコンマ数秒単位で展開され、先頭に躍り出たブレイムに猛然と鼻面をそろえた!!



そこにゴールがあった。

鼻差。
ほんの数十センチの差。


ゼンヤッタは負けた。

生涯初となる敗戦が生涯最後のレースとは…

競馬場はまるでこの世の終わりが来たかのような、言い表しのないような重い重い沈黙に包まれていた。現実に起きた爐海慮従櫚瓩まるで現実世界のものではないような夢現の時間がいつまでも競馬場にいた…いや全世界の競馬ファンの心を支配していった。


〔ポリスファンの方は気付いたかも?今回の各章ごとのサブタイトルは最後の「もどかしい無敗〜」以外はすべてポリスのサードアルバム『ゼンヤッタ・モンダッタ』の収録曲からその章ごとのゼンヤッタのイメージで選びました〕


ついに崩れた不敗神話も、ファンはあたたく、そして優しかった。
最後の最後、ハッピーエンドで終わらせて上げられなかった事が、ゼンヤッタにとっての最大の非礼にも思えるが、これが競馬。これが勝負の世界。

宿命・天命として受け入れよう。
人が大好きだというゼンヤッタ。
独特のステップで愛くるしいゼンヤッタ。
みんながいつの間にかそんな彼女に恋をして、いつしか恋や愛をも超越した狷段未焚燭瓩某簡僂錣蠅靴討い辰拭


好きだった。
そんな貴女が――…


もどかしい、
この世界を生きる馬たちが――……

もどかしい、
この世界を歩む人々が―――………


もどかしい世界の上で。


  

奇跡の名馬 (アメリカ合衆国・カナダの名馬) * 23:42 * comments(0) * - *

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