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Mermaid

   マーメイド

 〜 空飛ぶ人魚伝説 〜

世界唯一・奇跡の
     血統を持つ馬




父 サンウェーブ
母 メリーメイド
母父 サンミント

生年:1937年
性別:牡
毛色:鹿毛
国籍: ウィンドワード諸島 グレナダ
生涯成績:?戦?勝

透き通るようなセルリアンブルーの海を背景にして行われる島国の競馬に、私は夢想的な趣にも似た、強い憧れを感じる時がある。そこにある青く果てのない海と空に解放感を、長閑かに営まれる競馬に浪漫譚を抱くがゆえなのだろう。

大西洋のウィンドワード諸島、その最南端に浮かぶ島国グレナダ。島の全人口が10万人ほどのこの小さな島に、奇跡のサラブレッドが生まれ、周辺の島の競馬界をも巻き込んで贏輸を競っていたことを、知るものが何人いるのだろうか。馬の名を“マーメイド”といった。
大海に囲まれた、小さな島に生きた奇跡の馬の物語…海風が送るメロディに乗せ、彼の驥足を滔々と語り紡いでゆくことにしよう。

グレナダは既述した通り、ウィンドワード諸島の最南端に位置する島で、火山を包容する標高838m、総面積344K屬両島である。首都をセントジョージズとし、全人口の約1/3を擁している。1498年にかのコロンブスが来訪し、1674年からはフランスが植民を開始。しかし、それも束の間。1762年からはイギリスの領土となった。そんなグレナダの独立は、この馬が生誕してから37年の時が過ぎた1974年、2月のことだった。古くからナツメグなど、香辛料の産地として知られ、カカオ・バナナ・綿花などが産出されている。元首がエリザベス女王2世だったということが影響してか、競馬も開催されていたようなのだが、その詳細を辿る記録や文献を発見することはできなかった。


   
〔首都を臨む港町〕


                    
〔グレナダのとあるビーチ〕


1937年、グレナダの地に1頭の鹿毛馬が舞い降りた。この仔馬は“マーメイド”(人魚)と命名された。マーメイドはグレナダでデビューし、競走馬としての馬生をスタートさせた。グレナダ国内では無敵の駿足で、見る者をうならせ、箪食瓢飲(たんしひょういん)する子供たちに希望を降り撒いた。陣営の期待感も日和りに膨らみ、関係者のみならず、ファンの誰しもが海外遠征という鴻図を広げ、目を輝かせた。遠征先は同じウィンドワード諸島に属するバルバドスに決定。出走するレースは、その国の頂点、ダービー…つまり、バルバドスダービーを大目標に置き、大いなる栄光を求め、マーメイドは空を飛んだ。


             


透徹とした冴え渡る海を越え、バルバドスダービーに参戦したマーメイドだったが、惜しくも3着と敗退。島で一等星のような綺羅星の輝きを放った名馬も、コップの中で走っていた騏麟だったと言うのか…関係者は意気消沈としてしまう。しかし、あらゆる危険を省みずに島の名誉ために空を飛び越え、轟然と闘った“人魚”を島民は褒称し、マーメイドの帰来を拍手万雷で出迎えた。

ウィンドワード諸島を飛び回って活躍したマーメイドだっただが、彼を『奇跡のサラブレッド』と評したくなる誘因は、その能力ではなく彼女の血統にある。
サンミントの2×2。ヘアドレッサーの2×2。
なんということか、父と母の父、父の母と母の母がインブリードされているという、空前絶後、血統表中のすべての血がクロスされているという驚天駭地、戦々慄々とした血統なのである。「2×2」の類例ならば、『セントサイモンの2×2』の悲劇で有名なコロナティオン(紹介済み)など、何例か見当たるのだが、「2×2、2×2」という極限の配合がなされたサラブレッドは、このマーメイドのみしか競馬史には浮沈してこない。世界競馬史上唯一の血統例なのだ。


▲〔これがマーメイド号の血統表。ミラー血統とも呼ばれる〕


しかし、これだけなら、ただ単なる世界屈指の超危険配合例で終わるところだが、この血統を“奇跡の血統”と呼びたくなる所以は、もう一つのポイントにある。
それは…「父も母も同じ1930年に生まれた子供」であったという点。いまいちさっぱり来ない方のために、さらに詳しく説明しよう。
1930年、ヘアドレッサー(マーメイド号のおばあちゃん)は双子を産んだ。1頭が牡馬のサンミント、もう一頭が奇跡的になんと牝馬で、彼女はメリーメイドと名付けられる。そしてこの双子の2頭から生まれたのがマーメイドだった。
 
まず馬の双子という時点で大変珍しく(大抵の場合、1頭を無事出産させるため、複数の仔を確認した場合は人偽的に1頭を残し他は間引かれる)、2頭とも無事に生まれてくる時点でさらに貴重。そしてさらなる奇跡は牡と牝だったということ。これにより、競馬史上唯一無二の奇跡的血統が完成されたという訳である。

そもそも、超近親交配はサラブレッドの生産のみならず、生物学上でもタブーとされている。近親配合で生まれてきた仔馬には、脚部不安など、何らかの失陥を抱えている馬が多く、競走できる寿命や、身体の機能不全を後世にまでもたらしかねない。マーメイドはこうした血統のセオリーを踰越し、競走馬生活を謳歌した『奇跡のサラブレッド』なのである。


                               



晧然たる輝きを放つ丸い月が、紺色の海の上、浮遊している。
天衣無縫の碩老(せきろう)が夜空を見上げると、抒情詩を哀吟する人魚が空を舞っていた。
しかしその表情からは、哀しみの色も寂寥感も感じられない。この世の全てから解放されたかのような、晴れやかな太陽の風が、人魚をそっと包んでいた―…。


アンビバレンシーな名前と奇跡の血統。
空を飛ぶ人魚の伝説が、ウィンドワード諸島の空にたゆたっている…。




奇跡の名馬 (中米・カリブ海の名馬) * 04:55 * - * - *

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