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ミニモ ―Minimo― 

  ミ ニ モ

  〜時を越えた魔法〜

西アジア史上最強皇妃


  
父 シハァンギィアー
母 マイティーモー
母父 ビッグゲーム

生年:1968年
性別:牝
毛色:鹿毛
国籍:トルコ
主な勝ち鞍:ガジダービー(トルコダービー)、トルコ牝馬三冠(ディシ・テイ・デネム賞〔トルコ1000ギニー〕、キスラック賞〔トルコオークス〕、アンカラ・コスス賞〔トルコセントレジャー〕)、トルコ首相Cほか

ミステリアスな雰囲気が立ち込めた東欧・トルコ。夕暉(せっき)に映える暗愁の風音が譜線となり、行進曲をストリームさせてゆく――。何処からともなく耳を撫でるそのメロディーはトルコ行進曲。ベートーベンの劇音楽『アテネの廃墟』の第四曲…または、モーツァルトのピアノソナタ・イ長調の第三楽章『トルコ風のロンド』がその正体である。

夕闇が街を包む頃、一人の少女の姿があった。魔法使いを夢見る幼き眼差しは大人社会への頽然とした拒絶と反抗心に満ちていた。

「魔法さえ使えればどんなに楽しいか…」

沈鬱な心模様を晴らしてくれるのは、いつもファンタスティックな魔法への強い憧れだった。そんな彼女が親類のS.エリィエシルさんが経営する牧場を両親とともに訪れた時、一頭の子馬と出会った。話によると、期待など、全くを寄せられていない馬ということだった。少女はまるで呪文でも唱えるかのように、子馬へと話し掛けた…

「わたしも夢叶えるため頑張る。あなたも立派な競走馬になるのよ」

  


…無論、魔法でも魔術でもない。周囲から見れば清純可憐な女の子の呟きにしか聞こえない言葉だ。しかし、この囁きが現実の世界へと招来されようとは、まだ誰しもが夢にも思わなかった。


1970年、エリィエシルさんの妖精のような子馬がデビューの時を迎えていた。“ミニモ”という名が与えられたこの馬が、途方も無きポテンシャルを見せ付ける。キャンターのまま他馬を大差引き離し大勝。その瞬間、靄が掛かったように暗鬱とした競馬場が一瞬にして晴れ渡り、モヤモヤは彼方へと消散されたようなムードに包まれた。
「なんだ…!?この馬は!」
ミニモはその容姿やネーミングとはあまりにかけ離れた暴虐的強さで圧勝・激勝を積み上げてゆく。そして、来るトルコ・クラシック第一弾ディシ・テイ・デネム賞(トルコ1000ギニー、芝1,600m)は好位から音もなくスー…っと突き放しにかかり、スキップするかのように大楽勝。つづく二冠目キスラック賞(トルコオークス、芝2,100m)ではさらに凄まじく、ほとんどジョッキーの手綱が微動だにしないままダイナミックに加速度を上げてゆき、大差の圧勝。二冠を成し遂げた陣営は、震天動地のローテーションを発表する。

「ガジダービーに挑戦します」

他陣営はこれに驚きの色を隠せなかった。二冠を歴史に残る勝利で手中に収め、この後には三冠が控えているというにも関わらず、最強クラスの牡馬と早い段階で矛先を交えるという無謀ともとれる挑戦。まして大敗でもしてしまえば一気に人気も信頼も、そしてファンの心も離れてしまいかねない。賭けともとれる大英断だった。

ガジダービー(トルコ・ダービー、芝2,400m)に臨むミニモは、水鏡のように透徹とし、落ち着き払っていた。ミニモは直線コースに入るまで苦しそうな表情を覗かせていたが、ストレートに向くやいなや、ロケットブースターに点火されたかのような爆発的加速を見せ、牡馬たちに惜別を告げてゆく。その風のように疾駆してゆくミニモは、魔法の絨毯に乗っているかのようだった。ガジダービー史に残る歴史的牝馬による大勝劇。その光景は、あの少女の瞳にも焼き付いていた――。
「まさかあの子がこんなに強くなるなんて…」


秋めく微風が首都アンカラの木々を優しく撫でる季節に、トルコ国内はミニモの話題で持ち切りになっていた。と言うのも、トルコ三冠馬はそれまでに出現していたのだが牝馬による三冠馬は1頭も現われていなかった。こうした歴史背景も影響し、ファンはもちろん、国民は異様なまでの盛り上がりを見せていた。そんな中迎えた三冠が懸かった大一番、アンカラコスス賞(トルコ・セントレジャー、芝2,800m)はアンカラ中の人々が固唾を飲んで熱視線を送った。俊敏なスピード能力を誇るミニモは、スタミナに弱点があるはずだと、他陣営は推察。徹底してミニモをマークしつつ、ハイペースの消耗戦に持ち込もうと考えた。スタミナを必要以上に浪費させてしまえば、最後に繰り出す宙を滑るような魔法の末脚は使えない。ダービーでプライドをズタズタに踏み躙られた牡馬たちが共謀し、ミニモへと襲い掛かる。集団による暴虐行為ともとれるほどの強圧なプレッシャーが、紅一点のミニモへと間断なくかけられる(もう1頭アイニュルという牝馬も参戦していたが、この馬は完全にノーマーク。この牝馬が漁夫の利のように2着入線し、牝馬による同レース史上初のワンツーフィニッシュという快挙をもたらすこととなる)。
遠く離れたスタンドから見つめる、大人になった少女は、ミニモの窮地を悲愴な面持ちのまま、祈るように声援を送った。
レースは激流のように流れ、熾烈を極めた。1頭、また1頭と脱落してゆき、最後のコーナーを周回する時、馬群は散々になり、ミニモただ1頭だけになっていた―…他馬は完全にスタミナを使いきってしまい、疲労困憊、今にも転倒しかねないほどバテてしまっていた。またそれはミニモが尋常ではないまでの大海のスタミナと鋼のような精神力を兼備していた何よりの証となっていた。直線を向くとさらに烈風となり、四次元世界の超加速を見せ、見事三冠達成。ダービーを加えればトルコクラシック四冠という空前絶後の大記録を打ち建てたのであった。直線を独走してゆく絶世のヒロインへ贈られる拍手・賛美の大歓声が成り止むことはなかった。



その日、夕日が街影を作り始めた頃、ネオンの照明を背に受けてミニモと少女は再会を果たした。


               


そしてあの時と同じ。少女の面影もそのままの屈託のない笑顔で、淑女は呟いた…



「あなたはすごいわ…。夢を叶えたのよね…でも私も夢叶えたのよ。魔法を使いたいってゆう夢を。あの時私のかけた呪文どおり、あなたが名馬になった!すごいことだわ」

遠くから聞こえる汽笛。

街をゆく恋人たち。

すべてが明日へと向かう時間の中、二人の時間だけが数年前に思い描いた未来を夕空へ映していた――。
トルコ競馬史に永遠にさんざめく、高貴なる二人の女傑をシルエットに・・・…―――。
 
  

☆トルコ牝馬によるクラシック三冠路線は1956年に整備、制定されたのだが、三冠を成し遂げたのはミニモ唯一頭。またクラシック四冠の大偉業を達成した馬も、いまだにミニモのみである。

☆ミニモの制したキスラック賞(トルコオークス)はあまりの強さから今だに語り草になっているという。また、ミニモは残し去った潸然たる秀逸かつ常識を放擲した空前絶後の成績から、トルコ史上最強馬の1頭としても称え謳われている。

  
〔ダービー優勝時の口取り式〕



〔ガジダービー、牡馬たちを従え馬なりで流して楽勝するミニモ〕


今回の写真元:『Gazi Koşusu'nun en özel fotoğrafları』、『1971 GAZİ KOŞUSU-ELİYEŞİL AİLESİ ATI MİNİMO FOTO』

   

奇跡の名馬 (東欧・ロシア・アジア圏の名馬) * 23:50 * - * - *

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