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スペクタキュラービッド

【スペクタキュラービド】

〜The Legend of
     Gray Phantom〜

―米史上最強の中距離馬―



父 ボールドビター
母 スペクタキュラー
母父 プロミストランド

生年:1976年
性別:牡
毛色:芦毛
国籍:アメリカ合衆国
生涯成績:30戦26勝[26-2-1-1]

ある人は言う。彼こそが全米史上最強の名馬だと。
ある人は言った。ビド以上に強大な魅惑の引力を放つ馬はいないと。
白銀の馬体、驚異的加速力、大差勝ちの連続、連闘に次ぐ連闘、いまだ色褪せぬ極限の世界レコード、そしてウッドワードでの歴史的単走劇……
他の追随を良しとしない、発光のストーリー。凜冽なる鼓動脈打つ魅了の燐光。壮観なるビドの伝説を、じっくりと見ていきたい。


スペクタキュラービドは、母スペクタキュラーの預託先であったバックポンド牧場で産声を上げた。後に壮観なる命名が天与されることになる黯杳な葦毛の仔馬は、キーンランド・フォール・セールに出場する。その際彼に下された評価は、3万7000ドルというまずまずの価格となって示された。
ビドの未来に展開される大躍進を踏まえれば、あまりに安過ぎるものであった。
威光を全身から解き放つ、この黒い子馬を購買し、傘下へと加えたのがホークスウォース牧場のロバート・メヤーホフ氏で、最後の最後までセリ続けてようやくの奪取に成功した。メヤーホフ氏は当時、ボールドルーラー最高の後継種牡馬との冠が与えられたボールドビダーの産駒を喉から手が出るほど欲しかったのだという。メヤーホフ氏の熱情と執念が「壮観なる落札」として結実し、名馬スペクタキュラービッドを招来させるに至ったという経緯である。


ビドが2歳を迎えると、メヤーホフ氏は迅速に行動。地元メリーランド州に陣容を構える黒人調教師デルプ氏のもとへと、スペクタキュラービッドを送り込んだ。
流線形にスラッと滑らかなボディライン…迫力溢れ、強靱なる筋骨を見せる頑強な馬体。窈窕な後光を放散する芦毛馬が、堂々たる立ち振舞いを見せていた。
「コイツは…とんでもない競走馬になるぞ」
デルプ氏の感知した底知れぬ予兆はすぐに現実のものとなるわけだが、デルプ氏は少々自信過剰かつ多弁なところがあり、ビドの可能性を大振りに口伝して回るのであった。

そんな日常の喧騒を掻き分けるように調教は進められ、順風満帆にビドの調整は完成の領域へと推移していった。
そうしてやってきたデビュー戦は、地元ピムリコ競馬場の未勝利戦(ダ1,100m)が選定された。ここを見習いのロニー・J・フランクリン騎手を背に烈風のように駈け抜け、3・1/4馬身差つけると、颯爽とデビュー勝ちを果たした。
2戦目ではさらに鮮烈な勝ち方で8馬身差の大差勝ちを飾るものの、どうしたことか、3戦目を4着、4戦目も冴が無く2着と連敗を喫してしまい、周囲の評価を落としてしまう。しかし、デルプ調教師をはじめとした陣営に焦りの色はまったくなく、立て直しを図ったワールズプレイグランド(ダ1,400m)では15馬身差という猛烈な差をつけ大楽勝し、名馬への覚醒を遂げてゆく。

この後も圧勝、楽勝、壮絶なまでの競走能力をファンの眼前に披露し続けた。シャンペンS(GI、1,600m)を2と3/4馬身、ローレル・フュチュリティ(GI、1,600m)を8と1/2馬身差で大楽勝。
この年のベスト2歳馬には、当然だがビドが断然の評価で選ばれている。

暖かなフロリダで休養を過ごしたビドは、ガルフストリームでのハッチソンS(1,400m)からの始動を決めた。キャンターのまま4馬身差で楽走。上々の滑り出しであった。
さて、いよいよ米国三冠への旅路へと乗りだしてゆく訳であるが、スペクタキュラービドはここから尋常ではない、異次元の世界ローテーションをこなして見せる。
まず今季初戦から12日後、ファンテンオブユースS(1,700m)を8馬身差。
ここからが凄まじい連闘で、フロリダダービー(GI、1,800m)では後方から捲り4と1/2馬身、フラミンゴS(GI、1,800m)ではバックストレッチから一頭だけスパートを開始し、ゴール時には12馬身差…快進撃は止まるところを知らず、すでにケンタッキーダービーが9日後に迫っている中、ブルーグラスS(GI、1,800m)へと出走し、7馬身差の大楽勝。



〔フラミンゴS圧勝劇12馬身差…である〕


このような常軌を完全に逸脱した使われ方にも関わらず、余力は残されているのだろうか?
そんな憶測をも簡単に拭い去ってしまうのが、やはりスペクタキュラービドといったところか。後方から捲り気味に加速をはじめ、楽々とケンタッキーダービー(GI、2,000)の美酒を飲み干した。
二冠目のプリークネスS(GI、1,900m)はピムリコ競馬場…ビドのホームだ。
今回は4番手からバックストレッチで進出を開始。直線は独走となり、5と1/2馬身差をつけ悠々とゴールを通過していった。
これでビドは12連勝を達成。それと同時に世界最速のミリオンダラーズ最短記録を打ち建ててしまった。


〔ピムリコでのスペクラキュラービド〕

ついに三冠を懸けたベルモントS(GI、2,400m)ゲートオープンが数分後と迫っていた。
観衆はスペクタキュラービドの三冠達成を微塵も疑わず、瞳を子供のようにキラキラと輝かせ、その瞬間を待ち侘びていた――

重厚な空気を両手で押し退けるようにして、ゲートが開いた。
スペクタキュラービドはバックストレッチから加速を開始。一気に先頭を奪い、引き離しにかかった。

しかし…

4コーナーで並び掛けられると、いつもの流れ星のような伸びが見られず、3着と敗退。
静まり返ったスタンドからは、沈鬱などよめきと溜息でごった返す、異様な雰囲気に包まれていた。そうして絶大な名馬の敗戦後に決まって催される解析では、見習い騎手の腕を咎める声、ハードスケジュールと強すぎる調教による疲労、距離の不適性、それに加え、調教中にピンを踏んで蹄を怪我していたという情報も上がってきた。

失意に暮れることもなく、雪辱を固く誓っていた陣営は三冠馬アファームドとの一騎打ちを公算。そしてその夢の対決は、ジョッキークラブゴールドカップ(GI、2,400m)で実現された。2頭が他馬を引き離し、早くもマッチレース。10馬身…20馬身…30馬身。グングンと2頭と他馬との距離は開いてゆき、やがてレースの傍観者と成り果てていた。
逃げるアファームドをついにビドが捉え、並びかけたが、それも束の間、アファームドはビドを突き放し、一瞬遅れをとってしまう。そこに、ウイニングポストがあった――。
やはりこの1戦が決定的なものとなったらしく、スペクタキュラービドはベスト3歳に選出さるるも、年度代表馬はアファームドに奪われてしまった。

しかし、スペクタキュラービドのラストシーズンは、これまでの暗鬱なる部分をすべて相殺するだけの、神々しいまでの絶世の名馬のポテンシャルを見せ付ける。
名手シューメーカーを主戦に迎え、マリブS(1,400m)馬なりのキャンターで5馬身差圧勝。さらにチャールズ・H・ストラブS(GI、2,000m)では1:57.8という史上空前の世界レコードで大勝。このタイムをよくもまあ当時のダートにおいて叩きだしたものである。当時における日本の芝2,000の日本レコードより1秒半以上速い。あのサイレンススズカの金鯱賞と同タイムという対象を引き合いに上げれば、いかにこのタイムが冠前絶後、超夢次元のものであるかご理解頂けるものと思う。

スペクタキュラービドはさらなる進化を見せていた。速力にさらに磨きが掛かり、サンタアニタH(GI、2,000m)を大独走で8馬身差。マーヴィン・ルロイH(1,700m)では全くの馬なりのまま大気を震わすような超絶・絶句のスピードを放散し、キャンターで大差勝ちしてしまう。
この後も大楽勝を続けるビドの傍ら、デルプ調教師は
「単走レースを実現させてみせる」
と豪語していたが、ウッドワードS(GI、2,000m)で現実となった。遥か盤古の昔日、19世紀の頃、サラブレッドの絶対数も少なく、交通の整備がなされていなかった時代においての単走はさして珍しいものでもなかったが、近代・現代競馬における単走、それもGI競走におけるウォークオーバーは、“奇跡”としか言い様がない。

スペクタキュラービドによる、スペクタキュラービドのための、ビドのレースにスタートが切られた。たった一頭のレース。見えない何かを追い掛けて、スペクタキュラービドが砂塵を巻き上げ、空気が切り裂かれてゆく――


スタンドから見つめる者。

ブラウン管から見つめる者。

恋人と二人、息を潜めて熱視線を送る者――


すべてのものたちの想いがその走りに集約、投影され、一つとなって、スペクタキュラービドが生涯最後のゴールインを果たした。


この年の年度代表馬は文句なくスペクタキュラービドだった。

種馬としての大きな期待も虚しく、活躍馬は現れなかったが、ビドへの大衆の熱気と想いは変わることがなかった。
快活で純粋無垢。真っ白になった伝説は、米国競馬の最強馬として愛され続ける…これからもきっと――。







  ★彡追記メモ★彡

☆晩年の主戦を務めたシューメーカー騎手は、スペクタキュラービドの引退に際し、次のように述べている。
「本当にスペクタキュラーな馬だった」
そしてあらゆる名馬に携わってきた彼をして、生涯のベストホースにスペクタキュラービドを、迷わず上げている。

☆スペクタキュラービドは競走馬時代、真っ黒な皮膚をしていたが光線に当たると、灰色や紫色などに映り、なんとも不思議な外観をしていたという。

奇跡の名馬 (アメリカ合衆国・カナダの名馬) * 23:11 * - * - *

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