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リール  ― Reel ― 

  リール

〜マンダリンスノーの夕べ
    光音天の白い翼〜

米国競馬の神話的瞑妃



父 グレンコー
母 ガロッペード
母父 カットン

生年:1838年
性別:牝
毛色:芦毛
国籍:アメリカ合衆国
生涯成績:8戦7勝

私は、こんな話を耳に挟んだことがある。
「遥か昔の英国に400戦不敗の成績を残した白毛の牝馬がいた」――…。
   
それ以来の私は、なかば恋心を抱いた少女のような淡い想いを胸に、あらゆる文献・資料を読みふけり、葦編三絶するという烈日な日々に明け暮れた。



情熱的想いとは裏腹に、彼女との邂逅を果たすことはついに出来なかった。しかし、彼女への探求心により、世界各国の伝説の名牝たちと巡り逢うという幸運に恵まれたのも、幻の白馬が与えてくれた大いなる遺産であり、宝物だと私は思っている。
英国のビーズウイング、アリスホーソーン、ヴィラーゴ…フランスのセメンドリア、プライサンテリエ…ドイツのネレイデ…スペインのトカラ…トルコのミニモ…。
さらにはニュージーランドのデザートゴールド、アルゼンチンのラミッション、ウルグアイのベローナ、チリのドラマ、ジャマイカのシンプリィーマジック…――。
そして米国ではミスウッドフォード、フィレンツェ、ファッション……綺羅星のように天の潮流の中、麗しき旋律を競馬史へ、琴歌のごとく、生命の詩を爪弾いた伝説の名妃たちの記憶と記録。

中でも2頭ピックアップするなら、競馬の母国・英国からエレノア、現代でもダート競馬をリードし続ける競馬大国のアメリカからはアリエルを取り上げて論考を進めてみたい。
エレノアは英国のダービー・オークスのどちらも勝ち、当時の凱旋門賞的位置付けにあったアスコットゴールドC(芝4,000m)を2勝。6,400mのGI級も勝ちまくった眩眺なる名王妃。
一方のアリエルは創始期にあった米国競馬に忽焉と現れ、6,400mのダート戦(ヒート競走)を中心に57戦42勝という成績を残した怪牝である。

この神の領域に生きた2頭の超劇名牝をも登攀しかねない、もしかすると、史上最強にして、あの幻の白馬の正体なのではないか…との思いを滾らせる白瑛の名馬が、アリエルの生まれた16年後に胎動をはじめ、降誕していたのである。
純白の毛色――……清純可憐かつ全てを飲み込むかのような漆黒の瞳――……見る者を圧倒・震撼させる偉容なまでのオーラ…――……。
伝説中の伝説、神話の中の神話とも称賛していい白い瞑妃…彼女の名をリールといった。

                              


リールは1838年、ジェームス・ジャクソン氏の経営する農園に生まれ、イヤーリングセールにてトーマス・ジェファーソン卿が1000ドルで購買した後、競走馬としての耀きを放ち始める。調教師は現在でも明らかになっておらず、謎も多い馬であるが、その闇影に覆われた側面が、また悠久世界の窈窕なる雰囲気を醸し出している。
デビューは1841年の秋で、ニューオリンズはルイジアナの競馬場で姿を降臨させた。距離はダートの2マイル(3,200m)で、馬なりのまま楽勝。次戦は4マイル(6,400m)に伸びたが、今度は後続が霞み見えなく成る程に引き離し、大楽勝を遂げてしまう。

 
〔幻想的なまでの強さと速さ。400戦不敗の白馬の正体は彼女だったのかもしれない〕

4歳時、古馬になってからは、さらに幽玄なるオーラを放散し、他馬を絶世界の果てへと放擲するかのような烈震の快進撃。ミスフットとのマッチレースも抑えながら、鞍上も鼻歌を奏でながらの馬なりで制し、4マイルで走る際には、あのファッション(※)のタイムを完全に上回る7分32秒(ダート戦、しかも現代のような綿密な整備のなされていないコースでの6,400mのタイムとしては脅威的である)で走破していたという。


※ファッション
36戦32勝。シービスケットのように大衆の人気を博し、ボストン(45戦40勝の米国競馬19世紀の歴史的名馬)を2度も決定的に打ちのめした米国競馬伝説の名妃。


   


                         



         


                                         



揺曳の艀を撫でる漣鴛の風の禰音に、桜桃のマンダリンスノー。
神威の白い翼を大きく広げ翔歌してゆく天使の名馬。
                           


その巨白の光音天の白翼よ、邯鄲なるこの世界へどうか光を――。





歴史の賛歌の中、彼方の砂浜へと消えていった伝説の白馬の話である。







                 

  

☆リールは最後の1戦で惜しくも破れてしまう。これは躓き、さらには後手に回ってしまうという騎手の慢心から生まれた敗戦とされている。
このレース、リールは途方もないほどに引き離されたところから、この世のものではない、本当に翼が生えたかのように天槌したが、わずかに逃げ切りを許してしまったという。勝ち馬の名はジョージマーティン。こうした歴史的惜敗はその他の名馬にも見られる。フランスのシーバード(8戦7勝)、英国のブリガディアジェラド(18戦17勝)、同じく米国からも、マンノウォー(21戦20勝)、ネイティヴダンサー(22戦21勝)、日本で言うなれば、国内13戦12勝の英雄ディープインパクトがその最たる類例と言えよう。
全馬に共通している点は、その国の史上最強クラスであり、逃げ馬に負けてしまったという点である。



〔狹狙發稜鰺祗瓮蝓璽襦

☆引退後のリールは、レキシントンに唯一の土をつけるルコントなどを出産。その血は脈々と受け継がれ、ケンタッキーダービーを勝った女傑ウイニングカラーズ、米国二冠馬ティムタム、日本でも血統中によく見受けられるチーフズクラウンなどを通し、現世へと頭をもたげている。

  

奇跡の名馬 (アメリカ合衆国・カナダの名馬) * 23:36 * - * - *

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